Qwen3.5-397B-A17B公開:マルチモーダル対応の巨大オープンウェイトモデル


アリババ、Qwen3.5シリーズ初のオープンウェイトモデル「Qwen3.5-397B-A17B」を公開

アリババのQwenチームが、大規模言語モデルシリーズ「Qwen3.5」で初となるオープンウェイトモデルを発表した。モデル名は「Qwen3.5-397B-A17B」。総パラメータ397B、アクティブパラメータ17Bという巨大なスケールでありながら、視覚情報をネイティブに理解するマルチモーダル機能と、実世界でのAIエージェントとしての動作を強く意識した設計が特徴だ。技術的にはハイブリッド線形アテンションとスパースMoE(Mixture of Experts)を採用し、推論効率を大幅に向上させている。ただし、その巨大さと専門性から、現時点では研究開発者や特定のエンタープライズ用途が主なターゲットとなり、一般消費者が直接触れるサービスへの実装は限定的だろう。

Qwen3.5-397B-A17Bの核心:効率化された巨人

Qwen3.5-397B-A17Bの最大のニュースは、Qwen3.5シリーズで初めてモデルウェイトが公開されたことにある。これにより、研究者や開発者はAlibaba Cloud以外の環境でも、このモデルを実験やカスタマイズに利用できる道が開けた。公式ブログによれば、このモデルは「ネイティブマルチモーダル」であり、最初から画像やビデオなどの視覚情報を言語と統合して処理するように訓練されている。従来の多くのモデルが別々のビジョンモデルと連携する「外付け」方式を採るのに対し、一つのモデル内で統合的に処理するアプローチは、より複雑で文脈を踏まえた理解を可能にする。

さらに、その設計思想の根幹には「実世界エージェント」がある。これは、単にテキストを生成するだけでなく、コンピュータの画面を「見て」操作を計画したり、現実世界のタスクを段階的に実行するための推論を行ったりするAIを指す。このような用途に向け、モデルは長文脈(100万トークン)での理解と、効率的な推論が求められる。

技術的ブレークスルー:ハイブリッド線形アテンションとスパースMoE

総パラメータ数が397Bという巨大モデルでありながら、実際の推論時に活性化されるパラメータは17Bに抑えられている。これは「スパースMoE」アーキテクチャによるものだ。MoEでは、モデル内部に多数の専門家(Expert)ネットワークを用意し、入力に応じてその一部だけを動的に選択して使用する。これにより、モデルの表現力(パラメータ総数)を保ちつつ、推論時の計算コストと速度を大幅に改善できる。

もう一つの鍵が「ハイブリッド線形アテンション」の採用である。従来のTransformerアーキテクチャのボトルネックであった注意機構(Attention)の計算量を、長文脈において特に効率的に削減する技術だ。これらの技術革新の結果、Qwenチームの公式発表によれば、前世代のフルアテンションモデルであるQwen3-Maxと比較して、デコードスループット(文字生成速度)が8.6倍から最大19.0倍も向上したという。これは、実用的なエージェント応用において、レスポンスの遅延を減らす決定的な利点となる。

具体的に何ができるのか?AIエージェントとしての可能性

では、この「ネイティブマルチモーダル」で「エージェント向け」のモデルを使うと、具体的にどのようなことが可能になるのか。考えられるユースケースは多岐にわたる。

第一に、高度な画面操作の自動化が挙げられる。例えば、ユーザーが「このグラフのデータをスプレッドシートに抽出して、前年比を計算した表を作成して」と指示し、グラフ画像とスプレッドシートアプリケーションのスクリーンショットをモデルに与えるシナリオだ。モデルは画像からグラフの数値を読み取り、操作手順を計画し、自動化スクリプトを生成したり、直接APIを呼び出したりしてタスクを完遂できる可能性がある。

第二に、複雑なマルチステップタスクの計画と実行支援だ。研究開発の場面で、「この論文の手法を自社のデータセットで再現するために必要な工程を、使用するクラウドサービスの料金も考慮してリストアップしてほしい」といった複合的な質問に対し、テキストと論文PDF(画像として処理)の両方を入力として、段階的な計画書を生成できる。

また、201言語をサポートする多言語能力は、グローバルな業務を支援するエージェントの基盤として強力だ。異なる言語で書かれたドキュメントと画像を同時に解析し、要約や翻訳を行うといった作業を、単一のモデルでシームレスに処理できる。

競合モデルとの比較と位置付け

大規模オープンウェイトモデルという領域では、MetaのLlama 3.1 405Bなどの競合が存在する。Qwen3.5-397B-A17Bの特徴的な差別化ポイントは、最初からビジョンと言語を統合した「ネイティブマルチモーダル」である点と、「実世界エージェント」という応用領域を明確に想定した設計思想にある。

多くの純粋な言語モデルは、エージェント機能を後付けのプロンプトエンジニアリングやツール使用機能で実現しようとする。一方、Qwen3.5-397B-A17Bは、大規模な強化学習環境でのスケーリング訓練を通じて、エージェントとしての振る舞いをより根本的に学習しているとされる。アーキテクチャの効率化(ハイブリッド線形アテンション+MoE)も、エージェントが現実時間で意思決定を行うために不可欠な、高速な推論を実現するための布石だ。

ただし、その巨大さと専門性から、ファインチューニングやフルスクラッチでの学習には莫大な計算リソースが必要となる。したがって、現実的にはAlibaba Cloud Model Studioなどのマネージドサービスを通じてAPIとして利用するか、公開されたウェイトを基にした軽微な調整が、多くの開発者にとっての現実的な関わり方となるだろう。

まとめ:誰のためのモデルか?

Qwen3.5-397B-A17Bは、大規模言語モデルの研究開発の最前線にいる研究者や、次世代のAIエージェント・マルチモーダルアプリケーションの構築を真剣に検討する企業・技術者に向けた、一種の「開発者キット」である。その公開は、オープンなAI研究コミュニティへの重要な貢献と言える。

一般ユーザーが明日から直接その能力を体験できるわけではないが、このモデルを基盤とした、より賢く、視覚的な理解を持ち、現実のデジタルタスクを自律的にこなすAIアシスタントや業務自動化ツールが、今後登場してくる土台が整った。AIエージェントの実用化競争が、モデルアーキテクチャの根本から効率と能力の両面で加速することを示す、重要なマイルストーンとなる発表だ。

出典・参考情報

cloud9 Written by:

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