Alibaba、400BパラメータのマルチモーダルAI「Qwen3.5」をオープンソース公開


Alibaba、約400BパラメータのマルチモーダルAI「Qwen3.5」をオープンソース公開。MoEと新アーキテクチャでエージェント機能を強化

AlibabaのQwenチームが、テキスト、コード、視覚情報を統合的に推論できる大規模マルチモーダルAIモデル「Qwen3.5」をリリースした。約4000億パラメータという巨大な規模でありながら、MoE(Mixture of Experts)とGated Delta Networksという効率的なアーキテクチャを採用し、「ネイティブマルチモーダルエージェント」の構築を目指している点が最大の特徴だ。オープンソースとして公開されることで、研究開発コミュニティに最先端の基盤モデルを提供するが、その規模と複雑さから、実用を考える多くのエンジニアや企業にとっては、当面は「検証対象」としての意義が大きいと言える。

Qwen3.5の核心:MoEとGated Delta Networksの統合アーキテクチャ

Qwen3.5は、単なるパラメータ数の増加ではなく、アーキテクチャの革新によって大規模化と効率性を両立させている。Alibabaの公式ブログによれば、その基盤は「MoE(Mixture of Experts)」と「Gated Delta Networks」の組み合わせにある。

MoEは、入力に応じてモデル内部の専門家(Expert)ネットワークを動的に選択・活性化する仕組みだ。これにより、全てのパラメータを常に使用する従来の密なモデル(Dense Model)に比べ、計算コストを抑えながら巨大なモデル容量を実現している。Qwen3.5は約397B(3970億)の総パラメータを持つが、推論時に活性化されるのはその一部であり、効率的な処理が可能とされる。

さらに、「Gated Delta Networks」という技術を統合している。このアーキテクチャの詳細な技術論文はまだ公開されていないが、Alibabaの発表資料によると、ベースモデルに対する「差分(Delta)」を学習し、ゲート機構で制御する方式とみられる。これにより、マルチモーダルタスクや特定のエージェント機能に対して、ベースモデルの能力を柔軟に拡張・調整することを可能にしている。つまり、汎用の大規模言語モデル(LLM)としての能力を保ちつつ、視覚理解やコード生成、エージェントとしての推論・実行能力を「追加モジュール」のように統合した設計と言える。

「ネイティブマルチモーダルエージェント」として何ができるか

Qwenチームは、このモデルを単なる画像キャプション生成や視覚質問応答(VQA)を超える「ネイティブマルチモーダルエージェント」向けに構築したと強調する。これはどういうことか、具体例を想定してみる。

例えば、ユーザーが「このグラフの傾向を分析し、その結果に基づいてPythonで予測モデルを書いて、改善提案を箇条書きでまとめて」という複合的な指示を出したとする。Qwen3.5は、まず画像として入力されたグラフを理解し(視覚)、データの傾向を言語化して分析し(テキスト推論)、分析結果を基に実際の予測コードを生成し(コード)、最後にビジネス視点での提案文を出力する(テキスト生成)。この一連の流れを、単一のモデルが、外部のツールを頻繁に呼び出さずとも、内部の推論で連続的に実行できる可能性を示している。

Alibaba Cloudの発表資料によれば、この能力は、ユーザーインターフェースの理解と操作(画面ナビゲーション)、マルチステップの複雑なタスク計画の立案と実行、コードと自然言語を交えた技術的支援など、自律性の高いAIエージェントの核心部分を担うことを想定している。GitHubで公開されているモデルカードやデモを試すことで、これらのマルチモーダル推論能力の一端を確認できる。

開発者・研究者はどうアクセスし、何を検証すべきか

Qwen3.5はオープンソースモデルとして、GitHubのQwenLMリポジトリで公開されている。Alibaba Cloud Model Studioを通じてホストされており、開発者はAPI経由で利用を開始できる。また、モデルウェイトも公開される見込みで、研究目的でのダウンロードと独自環境での実行も可能となる。

実際に触ってみることで検証すべきは、まずその「ネイティブな」マルチモーダル統合の質だ。従来の多くのマルチモーダルモデルは、画像エンコーダーとテキストデコーダーを比較的浅く結合したものが多かった。Qwen3.5が標榜する、深いレベルでのテキスト・視覚・コードの相互推論が、ベンチマークスコアだけでなく、実際の複雑なタスクでどの程度実現されているかを試す価値がある。

次に、MoEアーキテクチャの実践的な挙動だ。理論上は効率的だが、実際の推論速度や必要なGPUメモリ、そして「どの専門家がいつ活性化されるか」という予測不可能性が、安定したアプリケーション構築にどのような影響を与えるかは、実際に動かしてみなければわからない。大規模MoEモデルの実運用における知見は、コミュニティ全体にとって貴重なものとなる。

競合モデルとの位置付けと誰が使うべきか

Qwen3.5は、OpenAIのGPT-4VやGoogleのGemini 1.5 Proといった、超大規模で閉じた(クローズドな)マルチモーダルモデルに対する、オープンソース陣営からの本格的な対抗馬と言える。特に、コード理解と生成を最初から強く意識したマルチモーダルモデルという点で、特徴を打ち出している。

このモデルが真に価値を発揮するのは、大規模マルチモーダルAIのアーキテクチャそのものの研究開発を行うチーム、またはテキスト・画像・コードをシームレスに行き来する高度なAIエージェントのプロトタイプを、自前のインフラで構築・制御したい先進的な技術組織だ。オープンソースであるため、モデルの内部挙動の調査、特定ドメインへのファインチューニング、独自の推論フレームワークとの統合など、クローズドAPIでは不可能な深いカスタマイズが可能となる。

逆に、既存のAIサービスを利用したアプリケーション開発や、チャットボット、単純な画像分析など、比較的限定されたタスクが目的の場合、Qwen3.5は明らかに過剰であり、その導入と運用のコストはメリットを上回る可能性が高い。これは、最先端の研究を先取りする「エッジ」のモデルが常に持つ両義性である。

まとめ:オープンソース巨大マルチモーダルAIの新たな一歩

Qwen3.5のリリースは、巨大AIモデルの主戦場が、単純な性能競争から、いかに効率的で機能統合的なアーキテクチャを設計するかという段階に移行していることを示す。MoEとGated Delta Networksの組み合わせは、そのためのAlibabaなりの解答だ。その成果である「ネイティブマルチモーダルエージェント」というビジョンが、オープンソースコミュニティによってどこまで具体化され、現実のユースケースに落とし込まれるかが今後の焦点となる。少なくとも、AIエージェントの未来を考える上で、無視できない技術的標識が一つ、地図に追加されたと言える。

出典・参考情報

cloud9 Written by:

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