ゴールドマン・サックス、AnthropicのClaudeで会計・コンプライアンス業務を自動化


ゴールドマン・サックス、AnthropicのClaudeで会計・コンプライアンス業務を自動化

世界有数の投資銀行、ゴールドマン・サックスが、生成AIを中核業務の自動化に本格投入する。同社はAnthropicと6ヶ月前から連携し、最新モデル「Claude Opus」を基盤としたAIエージェントを開発、貿易会計や顧客オンボーディングといったバックオフィス業務の効率化を進めている。金融機関による大規模言語モデル(LLM)の本格的な業務統合事例として注目されるが、その成否は、従来の自動化とは一線を画す「自律的」処理の精度と、ベンダーとの稀有な協業体制にかかっている。

「埋め込み型」の共同開発体制

このプロジェクトの最大の特徴は、単なるAPI連携ではなく、Anthropicのエンジニアがゴールドマン・サックス内に常駐する「埋め込み型(Embedded)」の共同開発体制を取っている点だ。CNBCの報道によれば、この連携は約6ヶ月前に開始された。ゴールドマン・サックスの最高情報責任者(CIO)であるマルコ・アルジェンティ氏が同メディアのインタビューで詳細を明かしたとされる。

この体制により、Anthropic側は金融業務の複雑な文脈や規制要件を深く理解し、Claude Opusの能力を特定業務に最適化できる。逆に、ゴールドマン・サックスは最先端のLLM開発ノウハウを直接吸収できる。これは、外部のAIサービスをそのまま利用する「ブラックボックス」型の導入とは根本的に異なり、自社の競争力となる独自のAIエージェントを内製に近い形で構築することを意味する。

自動化の対象:時間集約型のバックオフィス業務

では、具体的にどの業務が自動化の対象となっているのか。複数のメディア報道を総合すると、主に以下の2つの領域が焦点となっている。

貿易会計(Trade Accounting)

金融取引(トレード)が実行された後の、決済や簿記に関連する一連の処理。取引量が膨大で、細かい規則に従った正確な処理が求められるため、人的ミスや処理遅延のリスクが常につきまとう。AIエージェントは、取引データを自動で照合・分類し、会計システムへの入力や異常値の検知を担当する。これにより、従業員は例外処理やより高度な分析業務にリソースを集中できるようになる。

顧客オンボーディング(Customer Onboarding)

新規顧客を受け入れる際の審査や書類手続き。特にコンプライアンス(法令順守)関連の業務は、様々な書類からの情報抽出(KYC:本人確認書類など)や、定められたチェックリストとの照合が必要で、時間がかかる。AIエージェントは、提出された書類を読み取り、必要な情報を自動で抽出・整理し、不足事項や矛盾点を早期に発見することで、オンボーディング期間の短縮を図る。

これらの業務は、いずれも「大量(high-volume)」かつ「時間集約的(time-intensive)」という特徴を共有しており、ルールベースの従来型RPAでは対応が難しい複雑な判断や文脈理解が求められる領域である。生成AIの「理解し、推論し、実行する」能力が真価を発揮する舞台と言える。

Claude Opusを「AIエージェント」の頭脳として活用

このシステムの中核をなすのが、Anthropicが提供する大規模言語モデル「Claude Opus」の最新バージョンだ。Techbuzz.aiなどの報道によれば、ゴールドマン・サックスは「Claude Opus 4.6」を基盤として利用しているとされる。

重要なのは、単にチャットボットとしてClaudeを使っているのではなく、「AIエージェント」の頭脳として機能させている点だ。AIエージェントとは、与えられた目標(例:「この取引データを会計仕訳に変換せよ」)に対して、必要なツール(内部システムへの接続、計算、データベース照会など)を自律的に選択・使用し、一連のタスクを完結させるプログラムを指す。

例えば、貿易会計の自動化では、AIエージェントはまず取引報告書を読み、その内容を理解する。次に、過去の類似取引や契約書のデータベースを参照し、適切な会計コードを決定。最後に、その情報を会計ソフトウェアに入力するためのAPIを呼び出す、という一連のワークフローを、人的介入なしに実行することを目指している。

金融業界のAI競争における位置付け

ゴールドマン・サックスの今回の動きは、金融業界における生成AI活用競争が、前線業務(顧客対応、投資分析)から、よりコアで複雑な中堅・バックオフィス業務へと深化していることを示す。他行の事例、例えばJPモルガン・チェースがドラフトや要約などにAIを活用していることと比較すると、ゴールドマン・サックスのアプローチは「業務プロセスそのものの自律化」に踏み込んでいると評価できる。

成否のカギは、生成AIが持つ「幻覚」(事実と異なる内容を生成すること)リスクを、金融という極めて正確性が要求される領域でいかに抑え込むかにある。Anthropicのエンジニアが常駐する共同開発体制は、この課題を解決するための布石でもある。業務特有のデータでモデルの挙動を継続的に調整(ファインチューニング)し、出力を厳格に検証するガードレールを共に構築するためには、深い協業が不可欠だからだ。

ゴールドマン・サックスによるClaude Opusを基盤としたAIエージェントの導入は、生成AIが「便利なツール」の域を超え、企業の基幹業務プロセスを再定義する「インフラ」へと変貌しつつあることを強く示唆する事例である。その行方は、AIのビジネスへの実装が、単なる技術導入ではなく、組織と技術ベンダーの深い融合によって初めて成し得るものであることを証明する試金石となるだろう。

出典・参考情報

cloud9 Written by:

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