AI画像→3D→Web→MRの新パイプラインが「試すコスト」を激減
生成AIで作った一枚の画像から、わずか数ステップでMixed Reality(MR)体験を構築するワークフローが実現しつつある。これは3Dコンテンツ制作の民主化をさらに推し進める可能性を秘めているが、現状は技術的な実験段階であり、完成度の高い商用コンテンツを求めるクリエイターには物足りないかもしれない。
「つなぐ」技術が主役の新ワークフロー
これまで、オリジナルの3DオブジェクトをMR空間に登場させるには、3Dモデリングソフトを使いこなすか、高価な3Dスキャナーを用いる必要があった。しかし現在、既存のオープンソース技術を組み合わせることで、この障壁が劇的に下がりつつある。その核となるパイプラインは、AI画像生成 → 3D Gaussian Splattingによる3D化 → Web(Three.js/SparkJS)での配信 → MRヘッドセットでの表示という流れだ。個々の技術は既に実証済みであり、今後の主導権を握るのは、これらの技術をいかに効率的に「つなぐ」かというノウハウになると見られている。
各要素技術の役割と実現性
このパイプラインを構成する各技術は、いずれも利用可能な状態にある。
1. 出発点:AIによる画像生成(Midjourney等)
ワークフローの起点は、MidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIだ。ここで、3D化したい対象(例えば、ファンタジー風の壺や、未来的な彫刻)の画像を生成する。これが従来の3Dモデリングやスキャンに代わる、最もアクセスしやすい入力手段となる。
2. 魔法の変換:3D Gaussian Splatting
生成された2D画像を3D構造に変換する技術が、3D Gaussian Splattingだ。これは複数角度からの画像(または動画)を入力として、色付きの点群(ポイントクラウド)で構成される3Dシーンを高速に再構築する技術である。Scaniverseの記事によれば、この技術で作成された3D Gaussian Splatデータは、Meta Questデバイス(Quest 3を含む)で表示可能であり、既に複数のビューアーアプリが対応している。AI生成画像から3Dモデルを生成するツールとしては、Marbleなどのサービスも知られており、画像からメッシュ(ポリゴンモデル)をエクスポートする機能を提供している。
3. Webへの橋渡し:SparkJS
3D化したデータを、ブラウザで手軽に表示・共有するための鍵がSparkJSだ。これは人気の3D JavaScriptライブラリであるThree.js用の、3D Gaussian Splattingレンダラーとして機能するオープンソースライブラリである。Hacker Newsのスレッドでも言及されているように、SparkJSを用いることで、Gaussian SplattingデータをWebページ上でインタラクティブに表示することが可能になる。これにより、特別なアプリをインストールすることなく、URLを共有するだけで3Dコンテンツを体験できる環境が整う。
4. 没入体験への最終出口:Meta Quest 3とWebXR
最後のステップは、Web上の3DコンテンツをMR空間に持ち込むことだ。Meta Quest 3のようなスタンドアロン型MRヘッドセットは、WebXRという標準規格に対応したブラウザを内蔵している。SparkJSとThree.jsで構築されたWebページは、このWebXRを利用して、仮想の3Dオブジェクトをユーザーの実空間に配置するMR体験へと昇華できる。ユーザーはヘッドセットのブラウザで該当URLを開くだけで、自身のリビングにAIが生み出したオブジェクトが浮かんでいるのを体験できるのだ。
具体的な使い方と可能性
このワークフローを試す場合、開発者はまずAIで画像を生成し、それをGaussian Splatting変換ツール(またはMarbleのようなAI-to-3Dサービス)に通して3Dデータを作成する。次に、そのデータをSparkJSのローダーを使ってThree.jsシーンに読み込み、WebXRセッションを開始するコードを記述する。出来上がったWebアプリをホスティングし、Quest 3のブラウザからアクセスすれば、MR体験の完成だ。
「使うとこうできる」具体例としては、ゲームのコンセプトアートから即座にゲーム内アイテムのプロトタイプをMR空間に召び出してスケール感を確認したり、インテリアのアイデアをAIで生成し、その場で部屋に配置して雰囲気を確かめたりする用途が考えられる。アイデアの具現化から体験までのサイクルが、従来のゲームエンジンを用いた開発や、高精度な3Dスキャンに比べて、時間的・技術的コストを大幅に削減できる可能性がある。
既存のMR開発との比較と限界
UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンを使った本格的なMR開発と比べ、このパイプラインは「軽量で速い試作」に特化している。物理演算や複雑なインタラクションを必要とするアプリケーション開発には不向きだが、ビジュアルコンセプトの素早い検証や、3Dオブジェクトそのもののプロトタイピングには極めて有効だ。また、出力されるGaussian Splattingは点群ベースの表現であるため、ポリゴンモデルに期待されるような硬い表面やシャープなエッジの再現には限界があり、現時点ではある種の有機的でぼんやりとした質感を持つオブジェクトに向いている。
まとめ:誰がこの流れを試すべきか
このAI画像生成と3D Gaussian Splatting、SparkJSを連携させたMRパイプラインは、技術トレンドに敏感なフロントエンド開発者、デジタルアーティスト、XRプロトタイパーにとって強力な実験ツールとなり得る。特に、「とにかく低コストで新しい表現を試したい」「アイデアを形にするまでのスピードを最優先したい」という人には大きな価値がある。一方で、物理法則に従った正確なシミュレーションや、ポリゴンモデルによる高品質なビジュアルが求められる商用プロダクションへの即時適用は難しい。現段階では、技術の可能性を探り、未来のコンテンツ制作の在り方を先取りするための「ラボ」として捉えるのが適切だろう。次の主導権は、これらのオープンな技術をいかに自分仕様に最適化し、新たな創造のワークフローとして確立できるかにある。
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